アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、顔や頭、首、ひじやひざの裏側などに痒みの強い湿疹があらわれて、良くなったり悪くなったりをくりかえす皮膚疾患。
痒み赤みが強くジクジクする、乾いた湿疹でただれてガサガサになるなど症状は様々です。
乳幼児期にアトピー症状があらわれて、思春期頃には自然に治ることが多いといわれてきましたが、最近は成人後もアトピー症状が治まらない、また成人後に突然発症するケースも増えています。
自律神経と皮膚
皮膚は自律神経と密接に関係しています。 自律神経が乱れると皮膚の汗腺や皮脂線機能を上手く調節できなくなり、その働きが低下します。皮脂の分泌機能は皮膚のバリア機能に関わっており、発汗、排泄、体温調節機能が働きにくくなります。
アトピー性皮膚炎の痒みは二次症状をひきおこします。集中力の低下、イライラ感、ストレスが重なると自律神経が乱れ、睡眠リズムの変調など身体のバランスがとりにくくなります。
季節的な変化 ~ 外的要因による症状の悪化・軽減
乾燥する季節、秋~冬に症状が悪化する、反対に湿度が増す梅雨、季節の変わり目が苦手など、季節によってアトピー性皮膚炎の症状が変化する方も多いです。
暑さ、寒さ、湿度や乾燥が季節の邪として身体に入り込み症状が悪化する場合、そもそも身体が季節の変化に応じきれていないケースが多いです。
季節的な要因は、自覚していても対応が難しいため、事前に体調を整えておくことが大切です。身体の準備ができていれば、多少の暑さ、寒さ、湿度など、外的要素の影響をそれほど受けずに過ごせます。
体質改善には通年にわたる季節の変化に応じられる身体づくり。食事や生活習慣の改善も必要となります。
アトピー性皮膚炎 ~ 鍼灸・東洋医学の考え方
- 気の流れの滞り、陽気不足による活動性の低下と熱の停滞
- 水の停滞、血の停滞による冷えと熱のアンバランス
- 湿邪による浮腫みや胃腸・消化器系活動の低下
- 気の滞りから排泄活動が停滞、身体にとっての毒である邪が蓄積される
- 血の停滞からお血が発生、気のめぐりが更に停滞して身体の内部の冷えが強くなり、活動性が低下する
東洋医学的な視点では、睡眠不足やストレスは、血(けつ)の変動・停滞につながり、症状の固定化の要因と考えます。
アトピー性皮膚炎への鍼灸
アトピー性皮膚炎は、気血水の停滞や虚損、冷えと熱のバランスなどをみて身体をととのえる鍼灸をおこないます。
皮膚が敏感になっているため、浅い鍼か接触鍼(皮膚に軽く当てる鍼)で、皮膚表面から身体の内側に働きかけます。
皮膚は内臓の鏡
『 皮膚は内臓の鏡 』といわれています。
皮膚は身体の内側の状態を反映しており、東洋医学では、浮腫みや乾燥、かゆみや湿疹、皮膚のくすみや色味、 ほくろ、タコや魚の目、足裏の肥厚までも身体全体の状態をあらわしていると考えます。
鍼灸を行う際は、 皮膚表面の状態だけでなく、 脈やお腹から元来の体質や今の身体の状態をみて鍼とお灸をおこないます。
皮膚の働きと気の作用
鍼灸・東洋医学では、皮膚は汗を排泄して体温や水分を調節し、外界から身体をまもる作用を有していると考えます。
気が十分にめぐり、働いている状態では外界の変化に柔軟に対応できるが、気の不足や滞りがあると、外界からの影響を受けて心身の変調をきたします。
気は、主として脾胃(胃腸機能)と肺(呼吸機能)によって産生されます。身体の熱や水は、呼吸や発汗、排尿など身体全体の連動した働きでコントロールされているため、これらの機能の変調は皮膚の状態やはたらきにも影響を及ぼします。
胃腸の働きを活発にする
アトピーでお悩みの方の身体を拝見すると、上半身に汗をかいていてもお腹や手足末端の冷えが強い、お腹を触ると硬く冷たい、お腹やみぞおちを軽く押しただけで痛みを感じる、またはお腹に力がなく下腹部がげっそりしていることがあります。
これは、栄養をとり入れて分配する胃腸の働きや気をとどめる下腹部(丹田)の力が衰えている状態です。東洋医学的には脾胃の力が弱っていると捉えます。
栄養を吸収してエネルギーに変える力を十分に発揮するためには、皮膚表面の熱を取り除いて炎症をおさえるだけでなく、身体の内側を温めて胃腸の働きを活発にする必要があります。
体質改善のセルフケア 自宅でのお灸
体質改善の一助として、セルフケアのお灸をおすすめしています。
皮膚の状態によりお灸の可否はありますが、首筋や頭の嫌な汗がひき、頭上や眼のあたりのモヤモヤ感がスッキリします。お灸でお腹や手足を温める気持ちよさ、身体が内側からあたたまる感覚を感じていただきたいと思います。
身体の内側と外側
冷えと熱のバランス
ご自宅でのお灸をご希望される方には、自宅でおこなうお灸のアドバイスをさせていただきます。ご予約時にお申し出ください。
もちろん、お灸がこわい。皮膚が敏感で熱刺激がむずかしい方には、鍼のみの施術をおこなっております。
アトピー性皮膚炎 ~ 西洋医学では
西洋医学でもアトピー性皮膚炎発症の原因は、はっきり分かっていません。発症要因として、 『 アレルギー体質 』 と『 皮膚のバリア機能が働きにくい 』ことが基本的な要因にあると考えられています。
クリニックでは、副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)の外用、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の内服による治療が一般的です。薬剤を誤って使用すると副作用やリバウンドのおそれがあります。薬剤は必ず医師に相談の上でコントロールすることが大切です。
アレルギー体質とアトピー性皮膚炎
外部の異物から身体を守る生体反応
アトピー性皮膚炎は、気管支喘息・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎等との合併が多いことから、アレルギー反応がアトピー発症のベースにあると考えられています。
『 アレルギー反応 』 『 免疫反応 』 共にどちらも、外部の異物から身体を守る生体反応であり、同一の働きをもつものです。
免疫は、外部からのウイルスや細菌など異物の侵入を排除する働きです。 アレルギーは、過剰な免疫反応によってひきおこされる人体にとっても有害な事象です。アレルギー体質は遺伝的要因も関与していると考えられています。
アレルギー反応を引き起こすもとになる抗原は、ダニやハウスダスト、化学物質などさまざまなものがあります。どのような物質をアレルゲン(異物)と認識して反応するかは人により異なりますが、ある物質が一度アレルゲンとして認識されると、その物質が侵入するたびにアレルギー反応が生じます。
アトピー性皮膚炎と皮膚のバリア機能の低下
皮膚のバリア機能の低下がアトピー性皮膚炎の発症に関わっていると考えられています。
皮膚の一番外側にあるセラミドは、皮膚のバリア機能、防御する働きに重要な役割を果たしています。そのセラミドが不足していると皮膚の水分が失われて乾燥しやすくなります。
角質層全体の機能もうまく働かなくなるため、外部刺激が皮膚の内側に簡単に入り込みます。皮膚の防御機能が低下しているところにアレルゲンなどの刺激要素が加わると、皮膚の炎症がおこりやすくなります。
身体・環境の変化とアトピー性皮膚炎
外界からの刺激だけでなく、ホルモンバランスの変化もアトピー症状に影響を与えるため、男女ともに環境や年齢の変わり目にアトピー性皮膚炎の症状があらわれやすくなります。
乳幼児期
乳児期(0~3歳)は顔面や頭部に紅斑とよばれる赤い発疹や、丘疹とよばれる盛り上がった発疹がみられます。頸部や体幹、四肢に拡大。湿潤傾向が強く、痂皮をともないます。
幼児期(4~10歳)になると、首や腋など関節窩に紅斑や丘疹ができることが多くなります。湿潤は少なくなり乾燥、苔癬化する傾向がみられます。
乳幼児期のアトピー症状は食事や環境の改善により成長とともに落ち着くことが多いです。体質や遺伝的要因はありますが、環境因子であるアレルゲン物質をとりのぞくこと、食事や睡眠など生活のリズムをととのえることが大切です。
青年期・成人期
青年期、成人期はストレスや環境の変化によって、アトピー症状が急激に変化することがあります。幼少期のアトピーが成長にともない安定し、思春期には体力もついて治まっていたものが、受験や就職と同時に再発することもあります。
ストレスや外食の増加、睡眠の低下から気力体力を消耗。気虚・気滞の状態になり身体にエネルギーをとりいれる働き、身体に巡らせる働きが低下して、アトピー性皮膚炎の症状があらわれたと考えられます。
就学・就職・出産など 環境や役割の変化
東洋医学では、女性は年齢の7の倍数、男性は年齢の8の倍数の年齢は身体が変化する時期と考えます。
プライベートや社会での役割が変化する、就学、就職、妊娠、出産時期、更年期もアトピー症状が変化しやすい時期です。
成人されてから鍼灸院へ来院される方はアトピー症状がすすんでいる場合が多く、症状に違いはあっても一つの要因だけであらわれていることは少なくなります。
時間が経過してアトピー症状がすすんでいる方ほど複数要因が重なり、身体の深部に入り込んでいることが多くなります。アトピー改善のために様々な治療や時間的経過を重ねられてきていることが多いため、鍼灸を行う上でもある程度の期間が必要になります。
鍼灸だけでなく、食事や睡眠など環境をととのえること。生活改善、体質改善をおこなうことが必要となります。
また、生活のなかでアトピー症状をコントロールする目標設定も大切になります。